The Edge of Time

オヤネンのクルマは Audi RS 3。
バトルするには、それなりの性能を持つクルマか、命知らずの度胸、もしくは相当な腕が必要になる。法定速度内でなら、いつでも受けて立つ。

クルマは銭次第だが、度胸や腕はそうはいかない。
無駄に命を張ることは勧めないが、読者には腕を上げて、土俵そのものを移してもらいたい。
速度の世界から、時間の世界へ。
今宵は先夜の続きで、三次倍音の補則と、ITB(in the box)で扱うトランジエント処理の話をする。

三次倍音とは何か

理論や定義は音響工学の本に任せる。
ポスト・フィールドレコーディング的には、三次倍音は 非知覚現象の排除 に向く。インパルス(スパイク)を緩和し、時間軸の破綻を抑える。三次倍音は波形の“角”だけを焼き、持続部分の周期には干渉しない。
波形が一気に立ち上がるなら、それは音ではなく、電気的エラーか衝撃波だと断定する。音はそんな急には立ち上がらない。自然界にはゼロ秒の立ち上がりは存在しない。

オヤネンのテクニック

オヤネンはコンプを使わないことは既報の通りだが、ここで三次倍音による優位性を改めて示す。

一般的なコンプは、どれだけ優秀でも 揺れ戻し(release の反動) を完全には消せない。立ち上がりを押さえたあと、必ずどこかで微細な バックラッシュ(時間の遊び) が発生し、サステイン側へわずかな“引きずり”が生まれる。この“時間の尾”こそが、トランジエント処理における最大の汚れだ。

三次倍音による「焼き」は、このバックラッシュを一切発生させない。立ち上がりの角だけを焼き切り、戻りも、尾も、余計な遊びも生まれない。処理した瞬間で完結し、サステインには触れない。つまり、時間軸の純度を保ったまま、スパイクだけを切除できる。

ただし、この焼きは突っ込み量に依存するため、レベルの低いスパイクなどは Sonnox Oxford Envolution などでトランジエントを精密に整える技術も併せて持っておきたい。

ITB に移る

オヤネンがハードウェア処理に移行したのは、長く使用してきたソフトが使用できなくなったことと、度重なるアップデートによる追加課金制度に辟易したからだ。しかし、精度の面ではやはりソフトウェアに軍配が上がる。ハードは儀式性が強く、ステレオなら毎回信号音を送って LR のレベル調整などのキャリブレーションが必要で、これが面倒なのだ。
ということで、パソコン内で完結する安上がりな 「ミカ式ソフトクリップ」 の作成方法を紹介する。

ミカ式ソフトクリップ(WaveLab)

親ソフト:Steinberg WaveLab
ツール:Distortion、SuperVision/Oscilloscope、TestGenerator

理論

正弦波を矩形波に近づける。矩形波は奇数次倍音の塊であり、三次倍音を狙うなら矩形化が最短距離となる。

パラメータ
  • Boost:矩形波の度合いを調整
  • Mix:dry/wet、ドライブの調整
  • Spatial:LR の不均衡を生成(時間軸の純度には不要)
  • Tone:トーン調整(同じく不要)
  • Output:事実上はゲインステージング
  • Feedback:戻し量(台形の台部分にうねりを発現させることできる)
作成方法

信号音 → スコープ → 歪み の順でチェイン。パラメータをいじりながら、周波数メーターで倍音の発生量と波形の形状変化を確認しながら調整する。

電気信号による怪しげな揺れこそ生成できないが、純粋な奇数次倍音の生成は可能となる。これで目的を達成させることはできるが、それ以上に勉強になる。


腕を上げよと吠えておきながら、鍛えるところはおつむだったというわけだ。
これで、「EQ掛けて軽くコンプ」とほざいている前時代的なフィールドレコーディング親父とは違う存在になれるはず。そして、それを望む。


Author:Mika Ojanen
カテゴリー:寄り道 / プラクシス