デジタルとアナログの狭間で

オヤネンの長年の収録フォーマットは 48 kHz / 24 bit である。
ただ、これから自然音や環境音の収録を始める方には、96 kHz 以上を選んでおくをお勧めする。
48 kHz では 1 サンプルが約 0.0208 ms、96 kHz では約 0.0104 ms。
このわずかな差が、インパルスの扱いに影響することがある。

オヤネンが使用するアウトボードやプラグインのコンプレッサーは、アタックタイムを 0.01 ms まで設定できる。
しかしデジタル処理では、サンプリングレートが低いと次のサンプルが来るまで反応できず、瞬間的なインパルスがすり抜けることがある。
48 kHz の場合、アタックを 0.01 ms に設定しても、実際には約 0.02 ms 待つことになる。これはデジタルの仕組み上、どうしても起きる。

アナログは連続時間で動くため、サンプルを待つ必要がない。
デジタルで取りこぼすようなインパルスも自然に拾ってしまう。
現代のアナログコンプレッサーには 0.01 ms以下のアタックを持つ機種もあり、インパルスの頭だけを軽く押さえるような動作が可能だ。
これはスペックだけではなく、実際に波形を見て、耳で確かめ、現場で使い続けてきた中で理解したことでもある。

処理前
Sonnox : Oxford TransMod使用
アウトボード使用、コンプレッサー+サチュレーション(奇数倍音)
先読みはデジタルならではの利点、アタックの最速は驚異の0.005ms

琵琶湖の波や水物の収録では、音というより“出来事”としてのインパルスが多い。
水滴の衝突や微細な破裂は、音楽的なアタックとは別の時間構造を持っている。
オヤネンはここ数年、この“音ではないインパルス”の除去に悩まされてきたが、アナログ編集に戻ったことで、デジタル特有の取りこぼしから少し解放されつつある。

デジタルにはオーバーサンプリングという手法もある。プラグイン内部で 2 倍、4 倍、8 倍といった高いサンプリングレートに変換して処理を行い、最後に元のレートへ戻すものだ。アタック検知や非線形処理の精度が上がり、インパルスの残り方が変わる。ただし、これは内部処理の話であり、録音時の時間解像度そのものが上がるわけではない。48 kHz で録った素材は、どれだけ内部処理を高精度化しても 48 kHz の粒度を超えることはできない。

後知恵ではあるが、192 kHz(1 サンプル ≒ 0.0052 ms)で録っていれば、デジタルでもインパルスの取りこぼしは減っていたはずだ。録音という行為は、後から戻れない“時間の採取”でもある。どの粒度で時間を切り取るかは、後工程の自由度を決める。

デジタルとアナログの優劣を語るつもりはない。
両者は構造が異なり、時間の扱い方も違う。
どちらを選ぶかは、録りたいものの性質と、向き合いたい時間の形によって変わる。この記事が、これから自然音を録る方の小さな参考になれば、それで十分だ。


Author:Mika Ojanen
カテゴリー:寄り道 / プラクシス