今宵は、「EQ掛けて軽くコンプ」とほざいている前時代的なフィールドレコーディング親父を卒業するための第二弾として、EQについて説く。
なお、今回はすべての事象を物理によって説明することもできるが、それは避ける。なぜなら、それは研究の領域であり、サウンド・デザインには不要なことが多すぎるから。よって、ここで扱うのはあくまで知覚になる。
ローカットに普通のEQを使っていないだろうな
まず、まさかとは思うが、自然・環境音を扱う諸氏はローカットに普通のEQを使っていないだろうな?
そもそもローカットが必要になるほどマイク・プリ段でゲインを上げること自体が問題であり、用途に合った感度を持つマイクを揃えるのが筋だが、それにはオヤネンと諸氏に足りない銭が必要になる。
銭が足りないと起きる低周波の異常
では、銭が足りない故に発生する低周波の異常の原因を軽く説明する。
それは、機器ノイズが増幅によって指数関数的に増えた賜物。
- 体感的には 36 dB が限界
- それ以上の増幅は、ノイズが「音」ではなく「圧」として立ち上がる

ここで重要なのは、低域ノイズは知覚上「距離情報」を破壊するという事実だ。
低域は空間の「奥行き」を担う帯域であり、そこが膨張すると、録音物全体の距離感が崩壊する。
つまり、ノイズの問題は「汚れ」ではなく空間の破壊だ。
これを回避するには、単純にゲインを減らせる高感度マイクを使えばよい。
ただし、そうすると今度は大きな音がマイク・プリ段で受けられなくなる。つまり、塩梅の良いところで妥協するしかないのだ。
普通のEQで切ると何が起きるか
次、それを安易に普通のEQもしくはハイパス・フィルターでカットするとどうなるか?
- 意図通り低域は減衰する
- ただし位相が回転し、周辺帯域が群遅延する
- つまり、音が「遅れる」
ここでの「遅れ」は、音量変化よりもはるかに知覚されやすい。
人間の聴覚は、周波数よりも時間の整合性に敏感だからだ。
さらに重要な知見を加える。
低域の位相回転は「空気の密度」を変える
100 Hzでカットすると、影響は 2 kHz 付近まで及ぶ。
これは単なる帯域の話ではなく、空気の揺らぎ(微細な圧変動)の時間構造が崩れるということだ。
- 低域の位相回転 → 空気の「まとまり」が崩れる
- 群遅延 → 微細な揺らぎが「後ろに倒れる」
- 結果 → 風・水・木々の音が「生き物ではなくなる」
つまり、EQは「音を整える道具」ではなく、自然音の生命線である時間構造を切断する刃物だ。
リニアフェイズEQで時間軸を守る
ただ、これは位相、つまり時間軸に影響を与えないリニアフェイズEQを使用することで回避できる。
それを使うとプリ・エコーがどうのこうの言い出す奴がいるが、それは知覚上ではマスキングされるので実用上の問題はない。

ここでさらに深い知見を加える。
プリエコーは「自然界の乱流」に埋没する
自然音は常に微細な乱流(タービュランス)を含む。
そのため、リニアフェイズEQのプリエコーは乱流に吸収され、知覚上は存在しない。
一方、通常EQの群遅延は乱流と整合しないため、必ず違和感として残る。
つまり、自然音においては:
- プリエコー → 消える
- 群遅延 → 残る
この差は決定的だ。
事情によってローカットする場合は、とりあえずリニアフェイズEQを使用して時間軸の精度を保つところからはじめてもらいたい。
同時に、定位の安定を狙うなら MS処理でSideのみに適用する トリックも知っておきたい。
オヤネンの魔法のことばを信じるかどうかは勝手だが、これに異論があるようであれば、先に耳鼻科に通った方がよろしいのでは?
