京都の知人が持ってきてくれる最近のお土産は小倉山荘の煎餅。
私の楽しみは個別包装の袋に書かれている百人一首で、煎餅よりも先に好きな句を探してしまう。
これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも あふ坂の関
蝉丸
この句が見つかればとにかく大吉、見つからなければただ煎餅を喰らうだけ。それがまた楽しく、ついつい次を期待してしまう。
振り返ると、味そのものの記憶はまったく残っていない。不揮発性メモリーの中にあるのは、おみくじを引くようなその行為そのもので、記憶領域に残ったのはその物語性によるところだろう。
—
これが俺の煎餅に関する物語だ。
煎餅食っただけなら話にすらならないだろう。
お前のフィールドレコーディングに物語はあるか?
なければ、後からでも付けろ。
そう煎餅の醤油のようにな!
筆:Mika Ojanen(ミカ・オヤネン)
琵琶湖畔にて、黒猫とカラスを従えし隠者。
カラスは昼のざわめきを、黒猫は夜の囁きを、私のもとへ運ぶ。
遣いの運ぶものによって、私の世界観もまた移ろう。