オヤネンが執拗にこだわる「位相」。
そのきっかけになった出来事を、今回は少し緩めに話してみよう。
オヤネンにも、イキってDPAの無指向性マイク(ペア)を買い、気分だけはプロと浮かれていた時期があった。
ちなみに、以前紹介した「予兆の音」はそのマイクで録っている。確かに“そのマイクでしか録れない音”というものはある。
だが、犠牲になるものもあった。
それが位相だ。
そして、その問題を真正面から突きつけてきたのが、琵琶湖の波だった。
いま思えば、無指向のABで波を録ろうとしていた時点で、すでに負け試合だったのだが。
まず、琵琶湖や内海でよく見られる波の動きを簡単に整理しておく。
- 寄せては引く前後の波(Z軸)
- 立っては落ちる上下の波(Y軸)
- 波打ち際で反射して揺れる左右の波(X軸)
このうち、特徴的なのは波打ち際でゆらゆらと揺れるX軸の波である。
これを位相差ステレオ(AB20cm)で収録し、ヘッドホンで再生するとどうなるか。
ずばり、酔う。
原因はX軸の波が左右に微妙な時間差を生み、耳には“好ましくないエコー”として届くからだ。
脳が揺さぶられ、気持ち悪くなる。
その経験を境に、オヤネンは三研のMSマイクへ戻り、完全なco-axis一本での収録方式へ切り替えた。
さらにステレオショットガンを追加し、現在のスタイルに至る。
ちょうどSoundCloudと決別し、アマを卒業した頃の話でもある。
得意げに威張るオヤネンも、最初はなにもわかっていなかった。
ただ、問題を解きほぐすために手を動かし続けた結果、いまのように頭でっかちになっただけだ。
つまり、最大のヒントはいつも問題の中にある。
並の波ではひっくり返らなかっただろう。
あの日の誤解だけが、静かにこちらを転覆させた。
